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仙台高等裁判所 昭和43年(ネ)178号 判決 1969年11月26日

控訴人

畑中セキ

外六名

被控訴人

浜田敬止

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所は、原審挙示の各証拠により、原審の判示したとおり

(一)  (一審相被告)寺地忠一が昭和四一年七月三〇日午後六時ころ、自動二輪車(青あ九六―八三)を運転して三沢市から十和田市へ向つて県道を進行し、十和田市大字三本木字下平二一五番地先付近を通過した際、畑中幸雄の運転する第二種原動機付自転車(十和田市B―〇一七〇)が同一方向に向つて進行していたのを約二〇数メートル前方に発見し、その左側を追い越そうとして右自動車右側を畑中の乗つていた原付自転車左側に衝突させ、同人の腹部等に重傷を負わせ、同年八月一二日死亡させるに至つたこと

(二)  右事故は、寺地忠一が、折から雨混りの向い風という悪天候の中を、少くとも時速六〇キロメートルを超える速度で右自動車を運転し、前方注視をおろそかにし、しかも先行車の左側を追い越そうとした過失により、右自動車を畑中の乗つていた原付自転車に衝突させたものである、

と認めるので、原損害七枚目表八行目から八枚目表一行目までを引用する。

二控訴人らは、寺地忠一の運転していた前示自動二輪車の保有者は被控訴人であると主張し、これに対し被控訴人は、寺地忠一が右自動車の所有者かつ使用権者であり、同人が自己のためこれを運行の用に供していたものであると主張するので判断する。

<証拠> を総合すると、寺地忠一は、昭和四一年三月一二日ころから土木建設業を営む被控訴人にブルドーザーのオペレーターとして雇用されていたところ、私用に使用する自動二輪車を訴外十和田モータースこと佐藤留良から月賦で買い受けるため、被控訴人に対しその保証人になつて貰いたい旨懇請したところ、同人がこれを承諾したので、同年五月三〇日、右佐藤との間に、前示自動二輪車を、代金六万五、〇〇〇円、うち金二万円を即時に、残金を同年七月から一一月まで毎月各一万円ずつ(ただし最終回は金五、〇〇〇円)支払うとする旨の売買契約を締結し、金二万円を寺地が支払つて右自動二輪車の引渡を受けたこと、ところが、売主佐藤としては、被控訴人とはかねてから知合の間柄ではあつたが、寺地とはそれまで全く面識がなく、また、被控訴人としても保証人とはなつたものの寺地が残代金を支払わずして途中で止めるようなことがあれば求償にも困難をきたす等を考慮し、右三者間で、月賦代金の支払が完了するまで右自動二輪車の登記と自動車損害賠償責任保険契約の締結を被控訴人名義ですることを合意し、被控訴人を買主名義人として青森県陸運事務所に軽自動車届出の申請をし、また被控訴人名義で自動車損害賠償保険契約者となつたこと、しかし、右自動二輪車は寺地が保管し、専ら同人が雨降り等のため仕事が休みのときなどに、実家へ帰ることや遊びに行くため等の私用に使用し、前示月賦代金や保険料の支払も同人が得た賃金のうちからなしていたこと、本件事故が発生するまでの間、被控訴人が自己の用務のため等に使用したことはなかつたこと、および、本件事故後、寺地は月賦代金の支払を完了し、自らこれを訴外下山某に売却処分したこと、が認められ、甲第七号証(寺地忠一の司法警察員に対する昭和四一年七月三〇日付供述調書)中、右認定に反する部分はにわかには措信できないし、当審における証人毛利祐雄、同小笠原直の各証言をもつてしても右認定を左右するに足りず、その他、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定した事実によると、前示自動二輪車の買主としてこれを使用する権利を有し、自己のためこれを運行の用に供していたのは寺地忠一であり、被控訴人はたかだか保証人として主債務者寺地の割賦代金債務の履行を確保するため、官庁への届出の手続および自動車損害賠償責任保険契約の締結を被控訴人の名をもつてなしていたにすぎないのであつて、右自動車の運行を支配し、またその運行による利益を享受しているものでもないから、自動車損害賠償保障法にいう「保有者」にあたらないものといわなければならない。

また、控訴人らは、被控訴人が右自動二輪車の所有者でなかつたとしても、被控訴人はいつ交通事故が起るかもわからぬ自動車をあえて自己が権利者であると登録し、寺地忠一をして使用させて運行の用に供していたのであるから、禁反言ないし名板貸の法理に照らし、対外的には保有者と同一の責任を負うべであると主張する。しかし、前示認定のとおり被控訴人において所有者であるような諸手続を経ていることにより、控訴人らは被控訴人が前示自動二輪車の所有者であると誤認したとしても、被控訴人は寺地に対し、何らかの事業ないし取引関係につき自己の名義を使用することを許諾したものではないから、禁反言ないし名板貸の法理を適用する余地はなく、したがつて被控訴人が自動車損害賠償保障法第三条にいう自動車の保有者としての責任を負わせることはできない。

最後に、控訴人らは、寺地忠一が当時被控訴人に雇われ、被控訴人の業務の執行中に本件事故を起したものであるから民法第七一五条により被控訴人はその責に任すべきであると主張するので判断する。

前示認定したとおり、寺地忠一は昭和四一年三月一二日ころから土木建設業を営む被控訴人にブルドーザーのオペレーターとして雇用されていたことが認められ、この事実に<証拠>とを総合すると、被控訴人は、昭和四一年五月一八日、訴外岩本産業株式会社との間に、同会社が請負つた国鉄三沢・小川原間複線化工事に使用するため、被控訴人所有の小松D五〇アングルブルドーザー一基をオペレーター付で賃貸する契約を結んだこと、寺地は右ブルドーザーのオペレーターとして、被控訴人より右ブルドーザーと共に三沢市の工事現場に派遣され、右会社の飯場に宿泊し、ブルドーザーの操作業務に従事していたこと、本件事故のあつた当日は、降雨のため仕事が休みとなつたため、寺地は、日中は三沢市内のパチンコ店で遊興したり、飯場へ戻つて飲酒したりして過ごしたが、同日午後五時ごろ、右飯場の前から前示自己の所有に係る自動二輪車を運転し、十和田市内にある被控訴人方へ赴く途中、本件事故を惹起したものであること、寺地は、右事故を起した右自動車を、主に自己の遊びのため使用していたが、時には、右派遣先から被控訴人方へ連絡に赴く際、便宜のため使用することもあつたこと、が認められ、この認定に反する証拠はないが、他方、本件全証拠によるも、寺地が右事故当日、いかなる目的、ないし、用務のために被控訴人方へ赴かんとしたのかを明らかに認めることができない。

以上認定した事実によれば、本件事故は、寺地が自己所有の自動車によつて、また単に派遣先から被控訴人方へ赴く過程において生ぜしめたものというべきではあるが、この事実だけをもつてしては、いまだ寺地の自動車の運転が、客観的外形的にみても被控訴人の事業の範囲に属すると認めるには足らず、したがつて、本件事故が被控訴人の事業の執行につきなされたものと認めるには充分でなく、その他、本件全証拠を検討しても、これを肯認することができない。

三以上認定説示したとおり、控訴人らの被控訴人に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がなく、棄却すべきである。

よつて、控訴人らの被控訴人に対する請求を棄却した原判決は相当であり、控訴人らの本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。(鳥羽久五郎 牧野進 井田友吉)

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